高さ八メートルにも及ぶ城壁風の塀を持つ大門をくぐり、階を上る。
物見の台より振り向けば、日常は後ずさりして、彼方。
入口の檜造りの大扉が音もなく開くと、ホールには駘蕩と遊ぶ雲、香雲館曼荼羅を描いた絨毯。
そこに織り込まれた清流は、旅人の心をつたって、中庭の池水に落ちる。
舞台をしつらえ、縁を回した中庭。 時に、篝火が七宝の壁飾りと照らし、鼓の音が榛名の山並にふるえる。 太さ二尺を超える円柱を横目に、檜垣張りの廊下を湯殿へ。 湯縁に金古木漆を塗られた大浴槽のふくろうは 湯の涙を絶え間なく溢れさせ、 宴を運ぶ裳裾が中庭を囲む回廊をゆく。
古典模様を刻んだ組子の白障子が奏でる陰影。
漆塗りの洗面室の気品。
呼出音さえ鼓の音という優雅さ。
心尽しの料理に舌鼓を打てば、
古えの香りほのかにたゆたい、
游子は金蒔絵に掃かれた雲となって、
大和のこころを遊ぶ。